視察・調査

EPOC視察(企画活動)沖縄(石垣島・西表島)方面の視察会
「生物多様性・資源循環・脱炭素」の取組み 報告書

《概要》

日時: 2025年11月17日(月曜日)〜19日(水曜日)
目的: 「生物多様性・資源循環・脱炭素」をテーマとし「世界自然遺産」に登録されている西表島の「生物多様性」と、石垣島の「資源循環」・「脱炭素」に取り組む企業を視察する。
視察先:
  1. 八重山殖産株式会社
  2. 大濱信泉(おおはまのぶもと)記念館(マングローブに関する勉強会)
  3. 西表野生生物保護センター
  4. 大見謝(おおみじゃ)ロードパーク(マングローブ)
  5. 後良橋(しいらばし)ロードパーク(マングローブ)
  6. 仲間川視察クルーズ(マングローブ)

当所予定していた西表島での視察(3〜6)は、悪天候による船の欠航により中止となり、急遽、石垣島でのマングローブ視察(7〜11)に変更した。

  1. 名蔵(なぐら)アンパル(マングローブ遊歩道)
  2. 一本マングローブ(名蔵湾)
  3. 名蔵湾マングローブ林
  4. 吹通川(ふきどうがわ)マングローブ林
  5. 宮良川(みやらがわ)マングローブ林
  6. 八重山列島カーボンフリーファーム
参加者: 30名
<沖縄 離島全体図>
<石垣島 視察先>

《各施設の見学内容》

  1. 八重山殖産株式会社

    八重山殖産株式会社は、株式会社ユーグレナのグループ会社のひとつです。株式会社ユーグレナは、創業者の出雲 充(いずも みつる)氏が学生時代にバングラデシュを訪問した際に目にした栄養問題を解決したいという想いで起業した会社で、微細藻類とテクノロジーの力で「人と地球を健康にする」というパーパスのもと、その事業は食品から化粧品、バイオ燃料という領域に拡大しています。
    八重山殖産株式会社は、微細藻類(クロレラ・ユーグレナ)の高度な培養技術を保有しており、株式会社ユーグレナの生産拠点です。
    視察当日は、株式会社ユーグレナの出雲社長が東京から石垣島にお越しくださり、バングラデシュで目にした栄養問題を解決したいという想いから起業に至った経緯に始まり、食品・化粧品からバイオ燃料製造までの事業展開について、数々のエピソードを交えてご説明くださいました。
    続いて、八重山殖産株式会社 中野 良平(なかの りょうへい)氏から、クロレラ培養技術の他、バイオ燃料(SAF:Sustainable Aviation Fuel 他)への取り組みについてご説明をお聞きしました。
    その後、微細藻類の屋外培養設備をご案内いただきました。

    <クロレラ培養プール>
    <八重山殖産社屋前での集合写真>

  2. 大濱信泉(おおはまのぶもと)記念館(マングローブに関する勉強会)

    八重山殖産株式会社の視察終了後、翌日の西表島(いりおもてじま)マングローブの視察に先立ち、大濱信泉記念館の会議室でマングローブに関する勉強会をおこないました。講師は、中部電力株式会社 本店 電力技術研究所 バイオグループ グループ長 津田 その子(農学博士)氏に依頼しました。 

    <講演概要>

    • マングローブとは?…汽水域(海水と淡水が出会う水域)の森の総称である。ある特定の植物を指すものではない(個体名ではない)
    • 耐塩生のしくみ…根がすごい:ろ過フィルターがある。葉がすごい:葉の表面から塩分を排出。タネがすごい:水と栄養をもらって樹上で発芽 など
    • マングローブという命名の謎…カリブ海沿岸の先住民族の言語由来が最有力説
    • マングローブの植物たち…オヒルギ、メヒルギ、ヤエヤマヒルギ、ヒルギモドキなどの種類
    • 奇妙な根っこ…支柱根、筍根、板根、膝根
    • マングローブの価値…炭素貯留(ブルーカーボン)とクレジット、生物多様性と生態系サービス(いきものの宝庫、水質浄化機能)、防災・減災、エコツーリズムと地域経済
    <勉強会の資料>
    <勉強会の様子>

  1. 名蔵(なぐら)アンバル(マングローブ遊歩道)

  2. 一本マングローブ(名蔵湾)

  3. 名蔵湾マングローブ林

  4. 吹通川(ふきどうがわ)のマングローブ林

  5. 宮良川(みやらがわ)のマングローブ林

    西表島で計画していた視察(3〜6)は、高潮注意報・波浪注意報の発令により船が欠航したため、急遽、株式会社トヨタツーリストさまの迅速かつ的確なサポートをいただいて、石垣島での生物多様性(マングローブ)の視察に変更しました。
    名蔵湾は、八重山諸島で唯一ラムサール条約によって保護されている石垣島最大の湾であり、ヤエヤマヒルギが自生している他、一部、植林もされています。名蔵湾には、他の植物・樹木から離れた場所にポツンと立っている「一本マングローブ」があります。

    <名蔵アンパル(マングローブ遊歩道)>
    <マングローブ遊歩道に落ちていたタネ>

    <名蔵湾マングローブ 植林>
    <一本マングローブ(車窓より)>

    吹通川のマングローブ林では、ヒルギ科の植物がよく見かけられ、オヒルギやヤエヤマヒルギが群落を形成しています。マングローブは、魚やカニの隠れ家になる一方で、鳥類の繁殖や成長に必要な場所でもあり、水域だけでなく陸域の生態系も支えています。

    <吹通川マングローブ林 集合写真>
    <吹通川マングローブ林>

    宮良川は、石垣島南部を流れる島内で最大の河川です。宮良川のマングローブは、メヒルギ、オヒルギ、ヤエヤマヒルギが自生し、国の天然記念物に指定されています。

    <宮良川マングローブ林 視察の様子>
    <宮良川マングローブ林>

    前日のマングローブに関する勉強会で、基本的な事項を教えていただいた講師:津田 その子氏による現地での解説もあり、机上(知識)と視察(実際)が結びついて、マングローブに対する参加者の理解・興味・関心が深まった様子がうかがえました。


  6. 八重山列島カーボンフリーファーム

    石垣市では近年、ゴミ処理場の寿命や家畜糞尿等により自然環境・生活環境に影響が出ています。地域で処理しきれなかった家畜糞尿を燃料として活用するバイオマス発電をおこない、さらに発酵残渣を堆肥・液肥として再利用するなどして自然環境・生活環境を改善するとともに、脱炭素・生物多様性保全に貢献する地域循環型事業を具現化する段階にある「八重山列島カーボンフリーファーム」を視察しました。
    この事業は、IBF株式会社(バイオマス発電事業・環境事業)、玉取崎3R BIO FARM(バイオマス(ガス)発電所)、農地所有適格法人八重山列島カーボンフリーファーム合同会社(農業・牧場事業)の3会社により実施されます。バイオマス(ガス)発電所は、設備の設置や原料調達先・販売先の調整を進め、2028年3月末の商用運転開始を目指されています。
    また、この事業は、循環型経済をデザインするプロジェクトやアイデアを世界中から募集するアワード「Carbon-free Farm Prize 賞」を受賞されたとのことです。
    当日は、IBF株式会社 代表取締役 小笠原 正人(おがさわら まさと)氏、この事業への投資を検討している全日空商事株式会社 再生可能エネルギー事業化推進室 マネージャー 新開 聡史(しんかい さとし)氏から事業計画について説明を受けた後、お二人のご案内によりメタン発酵バイオガス発電施設・牛舎の建設予定地を視察しました。

    <視察の様子>
    <牛舎・バイオマス発電施設 予定地>

《視察を終えて》

2025年度EPOC視察会は「生物多様性・資源循環・脱炭素」をテーマとし、「世界自然遺産」に登録されている西表島の「生物多様性」と、石垣島の「資源循環」・「脱炭素」に取り組む企業を視察する予定でした。
しかし、高潮注意報・波浪注意報の発令により船が欠航したことから、石垣島での「生物多様性」・「資源循環」・「脱炭素」の視察に変更となりました。

「生物多様性」ではマングローブを対象に選定し、事前に「マングローブに関する勉強会」をおこなったこともあり、複数個所のマングローブ林視察を通じて、マングローブのみならず水域・陸域の生物多様性保全さらにはネイチャー・ポジティブ(自然再興)の重要性について理解が深まりました。

「資源循環」・「脱炭素」では、八重山殖産株式会社(株式会社ユーグレナ)のクロレラ培養技術により、食品・化粧品からバイオ燃料製造まで事業展開されている様子、八重山列島カーボンフリーファームでは、自然環境・生活環境に影響がある家畜糞尿を利用して、バイオマス発電をおこなうとともに、発酵残渣を堆肥・液肥として再利用するなど、脱炭素・資源循環に貢献する地域循環型事業の具現化に取り組まれている様子を視察させていただきました。

「生物多様性」の保全(マングローブ林)と「資源循環」・「脱炭素」に向けた事業を展開されている企業の視察を通じて、参加者の方々はさまざまなことを学ばれたと思います。

最後になりますが、EPOC視察団を快く受け入れてくださり、丁寧なご説明・ご対応を頂いた視察先のみなさまに、この場をお借りして御礼申し上げます。