視察・調査

低炭素社会分科会第一回視察「未来の水素社会を覗いてみよう!」

1日目

  • 株式会社 ハイドロエッジ

    日時2017年10月5日(木曜日)10時30分〜12時
    視察先株式会社ハイドロエッジ 本社及び工場(大阪府 堺市)
    参加者19名(EPOC会員)
    目的LNGの冷熱を利用して空気分離ガスを取り出すプロセスと、天然ガスを反応させて水素を発生させるプロセスを組み合わせる、世界でもここだけの先端的な液化水素製造方法(LNG冷熱利用型空気分離)を学ぶ。また、製品を輸送する充填ラインの見学も行う。
    所感来るべき水素エネルギー社会の基幹インフラである、液化水素製造プラントを見学した。二つのプロセスを組み合わせる水素製造方法は画期的であり、その効率的な製造方法に驚かされた。また、液化水素は水素ガスの800分の1の体積であり、輸送における利便性の高さからは、今後の水素利用の主役となるものだと感じた。

    1.企業概要

    株式会社ハイドロエッジは、岩谷産業(株)が50%、関西電力グループが50%の出資比率からなる、合弁会社である。平成16年4月1日に設立され、現在社員は28名で、ほぼ出向者である。
    ハイドロエッジの社名は水素が持つ力を最大限に生かす企業であることを意味している。

    製造しているガスは、液体水素・圧縮水素・液化窒素・液化酵素・液化アルゴンであり、産業ガスで一般的なものはほとんどここで作られている。工場ではLNGの冷熱を利用し、空気から窒素・酸素・アルゴンの産業用ガスを分離・製造する。更にそこで生産される液化窒素の冷熱を利用し、原料である天然ガスから水蒸気改質して得た水素ガスを液化水素にする。原料となるLNGは堺LNG(株)から供給している。
    液体水素事業は非常に順調で、2年後の夏を目指して新たにガスの系統を増設しようとしているとのことである。


    概要説明

    2.事業概要(紹介ビデオ)

    (1)プラントの特徴
      液化水素は、一般的に苛性ソーダを製造する塩水電解の過程で発生した原料水素を圧縮・精製・液化して製造する。一方でハイドロエッジは、天然ガス改質という工法で取り出した水素を液化するプラントである。同社には、隣接して天然ガスを供給する堺LNGがある。また、敷地内には液化水素プラントと空気分離ガスプラントも併設している。
    空気分離ガスプラントはLNGの冷熱を利用し、空気から代表的な産業ガスである窒素、酸素、アルゴンを分離・製造する。水素プラントは天然ガスを水蒸気改質して得た水素ガスを、空気分離ガスプラントで生産された液化窒素の冷熱を活用して効率よく液化水素にする。
    これまで、LNGの冷熱を利用して空気分離ガスを取り出すプロセスも、天然ガスを反応させて水素を発生させるプロセスも、それぞれ単独では実用化されてきた。しかし二つのプロセスを組み合わせる、すなわち水素プラントと空気分離ガスプラントを融合し冷熱を効率的に活用するのは、世界でもここだけの画期的な方法である。
    全ての製造プラントは中央制御室で1日3交代、24体制で運転管理している。構内には液化炭酸ガス製造プラントの堺カーボニクスが設けられている。


    (2)水素エネルギー社会実現のために
    圧縮ガスが水素ガスの約150〜200分の1に圧縮されているのに対し、液化水素は水素ガスの800分の1の体積である。また、実際の輸送では高圧ガスの約12倍の液化水素を一気に運んで貯蔵でき、顧客にとっては受け入れ頻度の削減、安定供給、省スペースなどのメリットに繋がる。
    また、-253℃の極低温の過程で不純物が除去されるため、ガスにくらべて高純度である。宇宙ロケットの燃料をはじめ、高純度水素へのニーズが高い半導体、液晶産業などの先端産業、自動車産業で利用が広がっている。
    水素の未来は自動車に留まらず、家庭・業務用燃料電池、発電など、産業や社会のシステムを大きく変える可能性を持っている。同社は水素の力で、来るべき水素エネルギー社会の未来をリードしていく。


    3.施設見学

    (1)LNG冷熱利用型空気分離プラント設備
    空気分離ガスプラントではLNGの-162℃の冷熱を利用して、空気から液化窒素・液化酸素・液化アルゴンを精製する。
    原料となる空気はろ過機で塵や埃を取り除き、原料空気圧縮機によって大気圧の約5倍の圧力に圧縮する。次にCO・H2前処理装置で化学反応を用いて大気中のCOをCO2に、H2を水にする。更にMS吸着機でCO2と水分を取り除き、窒素・酸素・アルゴン以外の成分がほとんど含まれない大気を、熱交換器によって約-170℃まで冷却し、液化空気として精留棟へ送る。その中で沸点差を利用して、各気体を分離する。窒素の冷却にLNGの冷熱を利用しているが、LNGの供給が止まった場合には電気を使った圧縮・膨張により窒素を液化する循環圧縮機を設けている。ここで製造される製品は工業分野での利用が多いが、医療用や食添用としても出荷している。


    (2)液化水素プラント設備
    液化水素プラントには堺LNGから1.5t/hの天然ガスが送られる。圧縮された天然ガスは、改質機に送られ、純水装置で作られた純水と混合される。改質機内の温度は800℃、高熱で加熱することによって水蒸気改質という化学反応を起こす。ハイドロエッジでは液化水素プラントを二系列にして、万が一の時にも生産を止めることなく安定供給ができるようにしている。
    改質されたガスは変成機で更に化学反応を起こし、水素とCO2に変化させる。次にPSA装置を使用する。PSA方式とは、特定のガスを選択的に吸着する特殊吸着材を用いて高圧力下で特定のガスを吸着し、目的のガスを分離・精製する方法である。この装置でCO2を分離して水素ガスだけを取り出し、液化機及び水素充填圧縮機へと送る。液化機では空気分離ガスプラントで製造された液化窒素の冷熱と循環水素圧縮機で水素を圧縮し、膨張タービンにより得られる冷熱の両方を用いて効率よく水素ガスを液化する。
    安定供給のため、300klの液化水素貯蔵タンクを4機設置し、液化水素の生産能力は3000l/hが二系列と、日本最大級の液化水素プラントとなっている。
    液化水素の充填ラインでは専用のタンクローリー車に積み込み、液化水素を全国へ輸送している。また、圧縮水素も製造・供給しており、600 Nm3/hの充填ラインを2機設けている。充填場では車輛が止まる部分の緑のシートが計測器になっており、正確な充填が可能である。


    4.質疑応答

    Q プラントのLNGや窒素を使っての冷熱化はここでしか行われていないそうだが、他の施設と比べてどれほど効率がよいのか?

    A LNGを使った空気分離の熱交換で、通常の空気分離で使うものと比べて電力が4割減である。


    Q 将来CO2フリーの計画はあるのか?

    A 当工場では、メタンから水素を取り出す過程でどうしてもCO2は出る。具体的な動きはないが、水素製造時に発生するCO2は回収・精製を行って、炭酸ガスの補助に使おうとしている。CO2フリーの検討はしているが、ネックはコストである。


    Q BOGはどうしても出てくる。これを回収・液化しているがこちらの方がコスト的によいか。

    A 圧縮水素で液化して出荷するが、安定的に出荷できていれば電気コストは問題ない。回収・液化は装置でコストがかかる。近隣の施設・一般家庭の燃料電池で利用できればいい。山口の施設では裏にある青果場のフォークリフト燃料や、200mほど離れたところの燃料電池にしようしている。わざわざ液化、戻すのも手間がかる。簡単な液化機がないのが課題である。


    Q こういった高圧ガスを扱う施設はどうしても沿岸部に集中するが、耐震や津波や液状化の配慮はどうしているのか。

    A 日本では大規模に高圧ガスを扱う施設は審査が厳しく、耐震基準の震度を通常の施設の二倍にして検証している。耐震に関しては阪神大震災でもほぼ無傷だったが、タンクではなく配管の接続が一か所漏れたので、現在はタンクのみならず配管にも注視している。対策は現状で限度だと考えている。
    津波に関する特別な対策はしていない。むしろタンクローリーが避難することによる渋滞、工場全体をコンクリで囲むことによって津波の挙動が変わり思わぬ被害を引き起こす可能性等の二次災害を考慮している。施設内で尽力するがあくまで人命を優先する。発生の確率、コスト等との兼ね合いを含めたリスクアセスメントが課題と認識している。


    Q 水素ガスの顧客・販売先はどのようなところがあるのか、また、タンクローリー1台分の水素の値段は?

    A 用途は大きく分けて、エレクトロニクス、金属熱処理関係、化学反応(油脂工場等)、ガラス関係(光ファイバー等)の4つである。ロケット燃料で大量に使われることもある。一番伸びているという分野はなく、全体としては横ばい。今後の動向で期待しているのは燃料電池関係。また、大量に使うという点で発電関係にも期待している。タンクローリー1台分の値段は企業秘密。


    Q イワタニならではの水素取り扱い時のオペレーションの工夫、安全対策上の工夫はあるか。

    A オペレーションは少人数のため自動化を進めているが、点検は人の目で行っている。教育を兼ねた活動としてリスクアセスメントは注力している。また、汚れで故障に気付かないということがないように、清掃には気を遣っている。
    お客様が使う貯槽タンクは47m3が多い。法的には貯蔵量が3t以上のものは耐震設計が必要(3t未満は不要)。水素47 m3は2.9tで3t未満だが、倒れて破損したら問題なので、全てにおいて耐震設計をしている。また、24時間ガスを止められないお客様のタンクから出る配管には緊急遮断弁をつけ、遠隔で止められるようにしている。緊急遮断弁の弁が壊れていないかも確認が必要であり、これを調べる際には緊急遮断弁を有する配管の元栓を止めないといけないので稼働が止まってしまう。その対策として予備の配管もつけ、そこにも緊急遮断弁をつけている。
    供給側の一番の悩みは漏れ。水素ガスは一番漏れやすいので配管は極力繋ぎの少ない溶接になっている。法的には「漏れないようにしろ」としか書かれていない。日々確認しているが、ごく少量漏れることはある。だからと言って設備の停止を行うと生産活動は停止してしまう。安全上、保安上問題のない程度の漏れなのかどうかは考える必要がある。

  • 岩谷産業株式会社 中央研究所

    日時2017年10月5日(木曜日)14時〜15時30分
    視察先岩谷産業株式会社 中央研究所・イワタニ水素ステーション尼崎(兵庫県 尼崎市)
    参加者19名(EPOC会員)
    目的国内最高レベルの超高圧や極低温の水素研究設備を擁する研究開発拠点である中央研究所を見学し、未来に繋がる新商品・新技術を生み出す創造力を学ぶ。また、水素を媒体とした水素社会のインフラ実現の具体的成果として、イワタニ水素ステーション尼崎を見学する。
    所感研究所は開放感があり、とてもクリーンなイメージを受けた。国内最高レベルの研究設備を顧客と共有し、共同開発を行っていく姿勢からは、新たなイノベーションを生み出す力を感じた。また、遠方からわざわざ尼崎ステーションに水素を充填しに来る顧客の話しなどもあり、水素普及にはステーションの利便性が重要であることを改めて認識した。

          

    1.施設概要

    中央研究所は2013年に設立された。イワタニの技術力をひとつに集約して、これからの社会に貢献できる新しいテクノロジーやイノベーションを生み出すために開設された総合技術研究所である。蓄積してきたガステクノロジーをベースに、世界トップレベルの各種分析機器、多彩な試験環境を整備し、パートナー企業や研究機関など、多岐にわたるコラボレーションを実施している。水素の研究以外にも、環境・ガス・材料・マテリアルの取り組みにも力を入れている。中央研究所のモットーはオープンイノベーション・オープンラボラトリーで、多くの人に来て、見て、使ってもらうことを目的としている。
    2014年7月には、イワタニ水素ステーション尼崎も併設し、液化水素供給の具体的な姿を提案している。 

    2.事業紹介(紹介ビデオ)

    (1)水素エネルギー社会実現のためのイワタニの取り組み
    人類が水素の力に気付いて75年以上、本格的な水素の活用が始まる中、同社は先陣を切って水素エネルギー社会の未来に向かって走り続けている。CO2を排出しない、究極のクリーンエネルギーと言われる水素の、製造から輸送・貯蔵・供給・利用まで全ての道を切り開いてきた。
    国内唯一の液化水素の製造メーカーとして、国内最大の液化水素製造プラント「ハイドロエッジ」、東日本初のイワタニガス千葉工場、山口リキッドハイドロジェンを設立。今後の水素需要増加に対応すべく、2017年には山口リキッドハイドロジェンの製造設備を現在の1ラインから2ラインへ、2019年にハイドロエッジを2ラインから3ラインへ増設予定である。これら3か所で1億2000万m3/年の水素製造能力を備え、全国への安定供給体制の強化を行う。また、タンクローリーやコンテナなどの輸送・貯蔵手段の開発、技術革新も進めてきた。
    2014年、国内初の商用水素ステーション「イワタニ水素ステーション尼崎」をオープンした。東京都心初の「イワタニ水素ステーション芝公園」は日本で最も充填台数の多いステーションである。トヨタMIRAIショールームを併設し、水素エネルギー社会の情報発信源としても期待されている。
    2016年には、国内初のコンビニ併設型の水素ステーションをオープン。水素エネルギーを身近に感じてもらい、より広く社会に浸透させていくことを目指している。また、国内初の空港内水素ステーション、「イワタニ水素ステーション関西国際空港」では、将来的に関西国際空港と大阪国際空港間で導入を予定している燃料電池リムジンバスの実証走行試験検討も始まっている。
    さらに、東京有明に東京都が導入を進めている燃料電池バスへの本格的な充填ができる水素ステーションの稼働を開始。宮城県仙台市には東北初の商用水素ステーションがオープン。全国で水素ステーションの整備を加速している。
    その他、将来の水素大量消費時代を見据え、オーストラリアの褐炭を活用したCO2フリー水素を供給利用する実証事業を始め、風力発電の電力で製造したCO2フリー水素を燃料電池フォークリフトへ供給する実証プロジェクトや、世界最大規模のCO2フリー水素を製造する福島CN社会構想にも参加している。ロケットエンジンの燃料として、また半導体など先端産業を支えてきた水素が自動車分野に、更には家庭・業務用のコージェネレーション、船の動力源、発電などに利用され、水素をエネルギーとして使う時代が動き始めている。


    (2)LPガス事業について
    1953年、同社はLPガスの販売を開始した。自社タンカーをはじめとする独自の輸送手段の確保、輸入・備蓄基地、全国販売ネットワークを有し、輸入から家庭までLPガスの流通ネットワークを独自に確立、一層の安定供給に努めている。マルイガスのブランドで310万世帯の顧客に届けているLPガスは分散型エネルギーであり、災害に強いエネルギーとして評価が高まっている。災害時のLPガス供給体制も更なる強化を目的に、LPガス貯槽の基礎補強のほか、非常用LPガス発電機、オートガス充填設備を設置したLPガス機関センターの整備を進めている。
    また、マルイガス災害救援隊を組織、災害時にいち早く現地に駆け付けてLPガスの復旧や救援活動を行える体制を整えている。
    LPガスから水素を取り出して発電する家庭用燃料電池エネファームや、太陽光発電の提案にも取り組んでいる。電力の自由化に伴い、家庭用電力市場に参入し、LPガスとのセット販売でサービスを向上している。
    今年4月からの都市ガスの小売り自由化に伴い、同社は関西電力及び中部電力と提携した。ガス機器の保安点検・修理・販売などを通して都市ガスエリアの顧客にサービスを提供していく。
    更に、国内にカセットボンベの自社工場を設け、安定供給体制の強化を図っている。カセットコンロ・カセットボンベ、家庭用洗剤アララシリーズをはじめとした生活用品、バナジウムを含む富士山の天然水「富士の湧水」の宅配サービス、富士の湧水を使用したミネラル保湿化粧水「フジナ」など幅広い商品を取り扱う。


    (3)ガスファンドエネルギーを通して産業と暮らしに貢献する
    同社の歴史は産業ガスの歴史である。多岐にわたるガスとその技術で様々な産業の道を切り開いてきた。酸素・窒素・アルゴン・炭酸ガスをはじめヘリウム・水素などの特殊ガスが、ハイテク分野から溶接・溶断、医療、食品に至るまで多様な分野で使われている。
    海外での供給強化を目指し、同社はマレーシア・インドネシアにエアセパレーションガスプラントを建設した。希少資源のヘリウムは全世界の約8%を取り扱っている。長年培ったハンドリング技術やグローバルな安定供給体制の強化により、国内外の先端産業を支えている。
    また、水素ベースの溶断・圧切用混合ガス「ハイドロカット」など、新ガス開発も行っている。更に産業用機械やロボット、FAシステムなど、ガスと機械を組み合わせたトータルソリューションで幅広い産業ニーズに応えている。
    同社は資源開発と用途開発でも新しい市場への道を開いている。ミネラルサンドなどの生産・精製・輸入からセラミックス原料とその成型品の販売、チタン・アルミなどの金属素材、ステンレス鋼の開発・提案、供給に取り組んでいる。また、スマートフォンやパソコンに欠かせない高機能性フィルムシートや植物由来のバイオマス油脂製品、高機能・高付加価値の電子材料等の素材開発も行っている。
    パームヤシ殻を使ったバイオマス燃料「PKS」は市場が拡大するなか、品質管理を徹底し、販売強化に取り組んでいる。
    豊かな食の文化も同社の拓く道である。農業や畜産のサポートをはじめ、冷凍食品や健康補助食品の開発、総合管理システムまで広く食の安心安全に貢献している。また、ガス技術を活かした独自の植物農場や、京野菜の冷凍加工技術の建設、野菜作りや加工の新たな事業モデルを提案している。
    循環型社会を目指す技術と想いを、社会・次世代に繋いでいくことも同社の大切な活動である。水素エネルギー社会の実現に向けて全国の小学校で行っている水素エネルギー授業や、水素エネルギーをテーマにしたフォーラムの開催、大阪科学技術館での「暮らしに役立つ水素の力」と題した展示など、多面的な取り組みを通して水素エネルギー社会の未来をけん引している。
    青少年のための科学の祭典「サイエンスフェスタ」への出展や「住みよい地球」全国小学生作文コンクールの主催、住みよい地球への想いを伝え、未来の子どもたちとともに考えようという試みも続けている。
    2017年4月には陸上競技部を設立した。アテネ五輪の金メダリスト野口瑞希選手の育成で実績のある廣瀬永和氏を監督に迎え、スポーツを通じて社会に貢献する。
    同社は時代の先に必要なものを見据え、ガスファンドエネルギーを通して産業と暮らしに貢献している。


    3.施設見学

    (1)ガスヤード
    ガスヤードでは液化水素・液化窒素・液化アルゴン・液化酸素を貯留しており、施設内での実験等に使用している。  中央研究所では水素・LPガス・太陽光・電気という4つの供給源を組み合わせて、エネルギー運用を効率化している。また、実験で使用した水素を回収、燃料電池により電気として再利用する実証システムを備えている。


    ガスヤード

    (2)イワタニ水素ステーション尼崎
    イワタニ水素ステーション尼崎は2014年7月にオープンした国内初の商用水素ステーションである。ハイドロエッジからローリーで輸送した液化水素を利用し、燃料電池自動車に供給する「オフサイト方式」を採用している。充填方法は「差圧充填(蓄圧器とFCVなどの車載水素タンクとの圧力差で圧縮ガスを充填する)」で、充填能力は340 Nm3/h (1時間当たり6台の満充填が可能)、トヨタ自動車のMIRAIを1台当たり3分以内に満充填することができる。
    尼崎は国内で最初に開設されたステーションなので、設備は多少古くなっている。例えば充填のためのノズルは現在ではより軽量の物となっており、尼崎のものと比べると半分くらいの重量となっている。


    イワタニ水素ステーション尼崎

    (3)実験室・分析室・デモンストレーションルーム

    実験室は「液化水素実験室」や「超高圧水素実験室」など複数あり、それぞれに国内最高レベルの水素研究設備が用意されている。機器や設備の実用試験に活用できる大型の実験室や、恒温・恒湿環境を生み出す設備、超高圧での水素実験室や極低温(液化窒素・液化ヘリウム・液化窒素)などがある。実験室では水素に関わる設備の耐久や、材料の評価試験など、実用化に向けた様々な研究開発が行われている。
    分析室は、半導体製造で使われる特殊材料ガスの分析から、ナノテクノロジーの進展を左右するナノスケール分析、世界トップレベルの高純度ガスを管理できる分析装置などを揃えている。
    デモンストレーションルームは、エネルギー・産業ガス・溶接技術の3つがあり、ガラス張りのオープンな環境が整えられている。溶接技術では溶接ロボットの実演が行われており、複雑な溶接も器用にこなす。また、溶接のために使用するシールドガスの開発を行っており、スラッグが出ないため後工程に有利などの特徴がある。


    4.質疑応答

    Q 安全面での取り組みとして、水素の検知器などはあるのか。

    A ステーションは火気厳禁であり、そこで使用する機器類は着火源とならないよう防爆認定品を使っているほか、水素漏洩検知器を設置している。また、人が着火源にならないように作業服は静電気・帯電防止の素材で作られている。実験室も同様である。


    Q 超高圧水素実験室の設備を100メガから135メガにアップするというが、ニーズがあるからなのか。

    A より高圧での試験を行いたいという要望は常にあるため、来年6月の完成を目指して試験設備のリニューアルを進めている。


    Q ステーションの値段はガソリンのように変動があるものなのか。

    A 今のところは変動なし。1100円/kgである。


    Q 水素の漏れだが、80メガになるとメタル化の継ぎ手やバルブ等のコストが上がるが、バルブメーカー等と見直し・検討などの話し合いはしているのか。

    A 規制に関してはFCCJ(燃料電池実用化推進協議会)が音頭を取って見直し、ワーキング、ディスカッションを経て経済産業省に提出する。その内容に従って、バルブメーカー等と検討を行っている。


    Q ステーションに充填に来る車輛数が少ないと思うが、赤字なのか。

    A 将来、一つのステーションが月に2000台程度のFCVに充填するようになると事業として成り立つ見込み。尼崎ステーションの充填回数は現在50台/月程度。


2日目

  • 川崎重工業株式会社 播磨工場

    日時2017年10月6日(金曜日)10時〜11時45分
    視察先川崎重工業株式会社 播磨工場(兵庫県 加古郡)
    参加者19名(EPOC会員)
    目的川崎重工業の水素サプライチェーンのコンセプトについて学び、実現の核となる技術のひとつである、「水素液化プラント」と水素関連製品について見学する。
    所感水素サプライチェーンのコンセプトのスケールの大きさに圧倒された。水素社会の到来はまだまだ先のことと考えていたが、具体化された技術・施設を見学することで、実現に向かって力強く動いていると感じた。

             

    1.施設概要

    播磨工場は瀬戸内海に面した播磨工業地帯のほぼ中央に位置する人工島で、45万m2の敷地を有する。1971年に開設され、現在はプラント・環境保全設備、ボイラ、土木建設機械、鉄構等を生産している。


    2.事業紹介(「水素サプライチェーンの実現に向けた取組み」)

    (1)企業概要
    川崎重工業は総合メーカーであり、一般消費者向けにはモーターサイクル、ほかに輸送分野では船舶や鉄道車両、エネルギー分野でガスタービン・エンジンなど、また各種プラントや環境分野ではごみ焼却場などを手掛けている。さらに精密機械として油圧ポンプやラジエーター、ほかにロボット等を作っている。
    水素関連で主なものは、種子島H-IIロケット基地(液化水素貯蔵タンク)で約30年前からトラブルなく稼働している。貯蔵されている一価水素は岩谷産業が製造。ほかに液化水素輸送コンテナなどがある。圧縮水素トレーラー等は水素ステーションで需要があり、手がけている。直接的ではないが肥料プラントの工程で大量に水素を製造するものもある。


    (2)エネルギーを取り巻く状況
    2015年12月COP21のパリ協定で世界は低炭素から脱炭素へシフトした。世界的な平均気温上昇を産業革命前に比べて2℃のみならず、1.5℃に抑える努力をすることを謳い、米中含め100か国が批准した。日本のCO2削減目標は、2030年までに26%削減、2050年までには50%減。特に2050年の50%減は、これまでの延長では達成できない高い目標で、ドラスティックにやり方から変えていかなくてはならない。


    (3)水素利用への動き
    水素は産業ガスとしては一般的に使われてきたが、エネルギーとしての利用は、2014年に「エネルギー基本計画」で水素利用が初めて大きく記載されたことに端を発する。これを受けて経産省はロードマップを策定し、「未利用資源褐炭からの水素製造」や「水素発電」が明記された。
    水素・燃料電池戦略ロードマップのフェーズ1は、エネファームの自立化やMIRAIなどFCV用水素ステーションの設置などを進めることが掲げられている。同社はフェーズ2(大規模水素供給システムの確立)に関連している。水素利用の飛躍的拡大により、大量に水素が必要になるため、供給側として安定的に低価格で提供するためにはどうしたらよいか、を手掛けている。水素の大量供給が実現すればフェーズ3として、2040年ごろに水素供給システムが確立される。
    現在はプロセス用途の水素需要がメインで、半導体製造や脱硫など化学反応として水素が利用されている。さらに2010年のトヨタ自動車のMIRAI発売に象徴されるように、輸送機セクターでも水素が使われるようになってきた。東京オリンピックが「水素オリンピックに」と言われているように、最終的に発電用途としての水素が必要になってくる。
    今年の施政方針演説で、安倍首相は水素エネルギーの重要性を強調した。同社に関わることとしては、「神戸での水素発電による世界初の電力供給」および「世界初の液化水素船による大量水素輸送への挑戦」も明記された。更に、これまでの「再生可能エネルギー等関係閣僚会議」という名称に「水素等」が加えられた「再生可能エネルギー・水素等関係閣僚会議」では、国際的な水素サプライチェーンの構築には水素発電が重要と示され、これを受けて今年中に関係省庁(経産省、環境省、国交省、文科省等)が青写真を作る準備をしている。
    グローバル企業の動きとして「Hydrogen Council」がある。これはエネルギー・運輸・製造業の世界的なリーディングカンパニー13社のCEOクラスが集まり、水素利用を世界的に啓蒙していこうという集まりである。2017年の1月にはスイスのダボスで開かれた世界経済フォーラムで設立が発表された。当初は13社であったが、その後日本の岩谷産業、アウディ、GM等が加わっている。次回は2017年11月にドイツ・ボンで開かれるCOP23で集まる予定である。


    (4)水素サプライチェーンのコンセプト
    水素は様々な化合物に含まれ、これを化学変化させて取り出す。例えば水の電気分解により、あるいは天然ガス(主成分はメタン(CH4))から取り出すなど様々な方法がある。同社が着目したのは、オーストラリアの褐炭を利用し、水素を生成する方法である。まず水素を作り出し、それを現地で液化して輸送貯蔵し、最終的に利用する。大量に運ぶために液化するという方法は、天然ガス(LNG)でも使われている。
    褐炭は石炭の一種なので、水素生成時にどうしてもCO2が出てしまうため、現地でCCS(Carbon Capture Storage)により貯留してCO2フリーの形にしている。褐炭は若い石炭で、数千万年くらいのものである。(黒光りしている無煙炭等の石炭は数億年。数百年は泥炭。)種類が異なるわけではなく、年齢が異なるだけで、世界に広く分布しており、水分量が多く輸送効率が悪い。しかし乾燥させると自然発火しやすいため輸送が困難である。したがって従来は現地で使うしかなかった。採掘権のみの未利用資源で安価であり、権益取得が容易であるといった理由から、同社は褐炭を選んでいる。
    褐炭は、豪州の首都メルボルンから東に150kmにあるラトロブバレーで露天掘りされている。すぐそばには褐炭発電所があり現地で使われている。ビクトリア州の約8割の電力がここで賄われている。
    ここには日本の総発電量の240年分に相当する褐炭が賦存している。
    オーストラリアの連邦政府とビクトリア州政府はCCSプロジェクト「Carbon Net」を推進している。最終的には、ラトロブバレーから80kmのパイプラインを介してCO2を持ってきて貯留する。ポーランドやドイツなどヨーロッパでも褐炭が多く出るところはあるが、CCSが可能な場所は少ない。
    輸送のキャリアとして、有機ハイドライドで運んだり、アンモニアで運んだりという方法があるが、同社は液化水素を選択している。その主な理由は、液化水素は生産過程で非常に高純度になるため、日本に持ってきた際に精製が不要で、蒸発させるだけで使用可能なためである。国内の電気エネルギーは高価であり、また火力発電が中心のため、発電時CO2排出量が多い。国内にて電気を使い精製をするとコストは不利となり、水素製造時のCO2排出量が増加してしまい、CO2フリー水素と評することが難しくなってしまう。一方で、-253℃で液化する点でハードルが高いが、同社は30年前から必要なタンクや技術などを有してきた。LNG船も有しており、-163℃の低温技術も持っている。
    更に水素を一日770t製造して日本に運んでくる規模にてコスト評価を行っている。770tは大きな火力発電所一機分(100万kW)またはFCV300万台の燃料に相当する量である。この想定のもと、船で運んでくるまでの費用(CIFコスト)を約30円/Nm3とはじき出している。水素ステーションに持ってくるまでの費用も含めると約60円/Nm3となる。現在の水素ステーションでは100〜110円/Nm3で販売されているため、原価60円であれば対抗できると試算している。30円の内訳のうち、水素製造〜水素運搬船までは日本の技術・製品を活用することができ、日本の産業の育成にも寄与できる。例えばLNGは約7〜8割が燃料代で、欧米が技術ライセンス等を持っているため、どうしても利益が海外に流出してしまう。それに比べ水素は理想的なコスト構造となっている。
    LNGの歴史から将来の水素導入シナリオ(ポテンシャル)を予測している。その予測によれば、液化水素の輸入基地が日本に沢山できてくれば(2050年に40基地、1つの基地に2隻で80隻規模になると)値段も18円/Nm3まで下がってくる。発電コストは2030年の初期で16円/kWh程度。このコストにCCSも含まれている。2050年になると量が増える効果で11円/kWhを想定している。2050年に原子力など他の発電コストがどうなっているかはわからないが、他の燃料と競合できるレベルに達すると考えられる。
    このプロジェクトは日本だけでなく、オーストラリア側にとってもメリットがある。輸出できなかった資源をクリーンエネルギーとして輸出できる上、雇用も創出でき、オーストラリア政府とはWin-Winの関係になっている。


    (5)技術開発状況
    川崎重工の水素関連技術のなかでも特に注力しているのが、世界初の液化水素運搬船で、大きな魔法瓶のような真空断熱二重殻構造を持つ。ただし、液化水素を運搬する船舶に関するレギュレーションが存在しなかったため、液化水素を運ぶためのガイドラインを国交省がIMO(国際海事機関)に提案し、2016年のロンドンの会合で審議され、承認された。これによりこの液化水素運搬船を用いた世界初の国際間液化水素取引を実施することが可能となった。
    今後の展開としては、2018年に神戸で世界初の水素ガスタービンコージェネレーションの建設、運転を予定し、2020年までに日豪水素サプライチェーンのパイロット実証を行うこととしている。
    ガスタービンコージェネでは、水素炊きのガスタービン(1MW級)で地域にエネルギーを供給する世界で初めての取組みを実施している。このガスタービンは水素と天然ガスの混焼だけでなく水素100%の専焼にも対応している。
    パイロット実証の具体的実施項目としては、オーストラリアにて褐炭を用いた水素製造プラントの建設及び実証運転、液化水素運搬船の建造及び実証運転、液化水素荷揚基地の建設及び実証運転を行う計画である。これらはNEDOの補助事業として行われるとのことであった。
    また、パイロット実証を遂行するために、電源開発、岩谷産業、シェルジャパンと技術研究組合(HySTRA:ハイストラ)を設立している。褐炭から水素をつくる部分は電源開発が担当し、船や基地をつくる部分は川崎重工業や岩谷産業、シェルジャパンが担当している。岩谷産業やシェルジャパン(世界で最もLNG船を運航している)はオペレーターの視点で協力している。
    この他に、NEDO事業にて豊田通商が幹事となった、北海道の苫前で風力発電由来電力から水電解を用いて水素を製造し、貯蔵、輸送、利用を含めたPower to Gasシステムの開発実証事業にも参加している。
    以上をまとめると、CO2フリー水素チェーンの主な意義・効用は、供給安定性、環境性、産業競争力向上である。


    3.施設見学

    (1)水素液化プラント
    水素サプライチェーンの「つくる」「ためる」にあたる技術が、「水素液化プラント」である。プラントでは1日あたり約5トンの水素を液化する能力を有している。本システムは、水素液化機、液化した水素を貯蔵する液化水素貯蔵タンクなどで構成されている。本システムは、純国産の独自技術で開発したもので、極低温物質のハンドリング技術や高速回転機械の開発で培ったタービン技術が活用されている。
    同システムでは、圧縮した水素ガスを冷凍サイクルで冷やされた水素と液化機内で熱交換しながら冷却することで液化水素を製造する。
    水素は液化すると体積が約800分の1になり、利用の際は蒸発させるだけで高純度の水素ガスを得ることができる。ただし、液化水素はLNGの10倍蒸発しやすいため、長期保存のためには、タンク内での液化水素の蒸発を抑えることが重要である。同社ではLNG貯蔵タンクより高度な断熱技術を開発して液化水素貯蔵タンクを実現している。


    (2)水素技術実証センターおよび水素関連製品
    「ためる・はこぶ」にあたる部分として、水素運搬船がある。水素を次世代エネルギーとして活用するためには、大量の水素を効率よく、安全に輸送する技術が求められる。同社は日本で初めてマイナス162℃でLNGを運ぶ運搬船を建造したが、液化水素はそこから更にマイナス100℃近く低く、蒸発しやすい。そのため、液化水素を貯蔵するタンクには真空二重殻構造及び積層断熱材という断熱技術が使われている。また、新素材の使用だけでなく、タンクの曲線を作る曲げ加工や、隙間ない溶接加工など、職人の技術も合わさって、世界最大の真空魔法瓶ともいうべき液化水素貯蔵タンクはでき上がっている。
    また、液化水素を陸上で大量に輸送するためのコンテナ車や、多様な輸送形態のニーズに応えて圧縮水素トレーラーも製造している。


    水素技術センターにて説明を受ける


    4.質疑応答

    Q 一部海外の技術・部品・設備を使わなければならない理由は何か。水素設備に特化したため必要となるのか。

    A 一部分だけ日本で製作できないため、海外製品を持ってくるしかない。これは弱点であり、やめたいと思っている。



    質疑応答

    Q コスト面で、30円/Nm3を切りたいとのことだが、生産量以外でブレイクスルーが必要となるモノはなにか。

    A 一番は液化にかかる電気。液化動力の効率化が大きいと見込んでいる。また、水素製造時のCO2分離の効率化も重要と考えている。


    Q CCSのような複雑な設備があるが、単純に水を電気分解した方が早いような気がしてしまう。

    A 水電解というのはCO2を排出しないので究極的にクリーンではある。ただし、大規模な水電解装置がない、また再生可能エネルギーのコストが高い。水電解は電力がもろにコストに反映するので、再生可能エネルギーから水素を作るのは割に合わない。通常の電力なら割に合うかもしれないが、CO2を出すのでそれをどのように扱うかが悩みどころとなっている。まずは化石燃料から低コストで水素を製造することを目指し、最終的には再生可能エネルギーから水素を低コストで作れるように研究を続けている。車レベルの小規模なものなら水電解でも可能だが、大量の水素を使って再生可能エネルギーにするにはまだ時間が必要である。


    Q ドイツの企業が液化技術の特許を取得したが、その特許のライセンスに触れたりしたのか。あるいは回避するために何かオリジナルのもので突破したのか。

    A 特許侵害にならないように自社でオリジナルの技術を開発した。


    Q なぜ今まで水素事業への着手を行わなかったのか。

    A 液化水素の市場が小さいので莫大な投資をしてもリターンが見込めなかった。2013年から手掛けたのは将来を見据えての行動である。


    Q タンクの配管の溶接等、最終的にヒトの技術によるものがあるが、社員間での技能伝承等はあるのか。

    A いくら機械化ができたとしても人の手は必要。技能のあるベテラン世代が退職していくため、若手に技術伝承をするため「技能道場」などを使って継承できるようにしている。

  • 川崎重工業株式会社 明石工場

    日時2017年10月6日(金曜日)13時45分〜15時
    視察先川崎重工業株式会社 明石工場(兵庫県 明石市)
    参加者19名(EPOC会員)
    目的水素サプライチェーンを構成する核心的かつ最先端の技術である、「褐炭ガス化水素製造設備」「Kawasaki CO2 Capture」「水素ガスタービン燃焼器」を見学する。
    所感見学した技術はどれもまだ実用化されてはいないが、これらが現場で使われるようになれば水素サプライチェーンのみならず、世界の脱炭素社会化に大きく貢献するであろう技術だと感じた。

    1.施設概要

    明石工場は1940年、航空機用エンジンと機体を組み立てる川崎航空機工業の生産工場として開設された。51万m2の敷地を有し、基礎研究部門、データシステム部門、および二輪車、汎用エンジン、産業用ロボット、さらに航空機用・陸舶用ジェットエンジン・汎用ガスタービン・ガスエンジンなど、それぞれに業界屈指の技術をもって幅広い製品群を送りだす川崎重工業の主力工場の一つである。


    エントランス展示物紹介

    2.施設見学

    (1)褐炭ガス化水素製造設備
    水素サプライチェーンの「つくる」においてまず重要な技術は、褐炭から水素を製造することである。こちらは試験設備であるが、褐炭をガス化する方法で水素を製造することに成功している。
    褐炭のガス化は商用の実績がないが、基本的には石炭のガス化プロセスと同じである。この褐炭ガス化水素製造設備では、褐炭に水を混ぜてガス化炉で燃やし、出てきたガスを反応器で水素とCO2にする。その後吸着塔で水素だけにするという仕組みで水素を取り出している。
    2020年には褐炭ガス化技術を技術研究組合(HySTRA)にて実証の予定である。

    (2)KCC(Kawasaki CO2 Capture)
    褐炭から水素を製造する際に発生するCO2はCCSにより処理することで、CO2フリー水素のチェーンを実現することができる。 CCS(二酸化炭素回収・貯留)とは、排出されるCO2を大気中に放散する前に捕らえて(Capture)、地中に貯留する(Storage)技術である。上部に水やガスを透さない不透水層が存在する帯水層を選んでCO2を圧入すれば、長期間にわたって安全に貯留できる。
    CCSは、これからの低炭素社会を実現する上で非常に重要な技術であると期待されているが、分離・回収時のエネルギー消費量低減が課題となっている。同社ではこれまで「省エネルギー型二酸化炭素分離・回収システム」の研究開発に取り組んでおり、KCC移動層システム(CO2固体吸収材を移動させることにより、吸収効率を向上させることが可能となるため、大型化に適したシステム)を新たに開発した※1。これにより、未利用エネルギーである低温排熱を用いたCO2の分離・回収が可能になったことで、従来の方式と比べて大幅な省エネルギー化を実現することができた。
    平成31年度以降には、関西電力舞鶴発電所内に、国内初となる固体吸収材を用いた40t- CO2/日規模の設備による実用化試験を実施する予定である。

    ※1 CO2用固体吸収材の開発は、公益財団法人地球環境産業技術研究機構による


    (3)水素ガスタービン燃焼器
    水素サプライチェーンの「つかう」局面において、水素ガスタービンは、安定的でクリーンな発電を行うために必要な発電用のエンジンにあたる。同社では100%水素を燃料とした、世界初の水素専焼ガスタービンの燃焼技術の開発に成功している。
    ガスタービンでの水素燃焼は、水素の燃焼速度が速いことから燃焼が不安定になりやすく、加えて火炎温度が高くなることから、NOxの発生量が天然ガス燃焼時の2倍近くになることが課題となっていた。これを押さえるために、従来は水や蒸気を用いて燃焼温度を制御(ウェット型)していたが、燃焼効率が低下することがまた課題であった。
    同社ではこれらの課題を解決するため、微小な水素火炎を用いることで逆火等の不安定燃焼を抑制し、かつ低NOx燃焼を可能とするドライ・ロー・エミッション(DLE)の基礎研究を実施してきた。ウェット型に比べてNOx排出量を抑制し、なおかつ、設備やシステムが簡素であることから経済性にも優れている。今後、さらなる研究開発を進め、2017年を目標として燃焼器の完成を目指すとともに、ガスタービンに搭載しての技術確立にも取り組んでいくとのことである。
    水素発電は発電段階ではCO2を排出せず、CO2フリーの電源である。褐炭からの水素製造が可能になれば、安定・安価かつ大量の水素供給と結びつき、大規模かつ安定的で低環境負荷な電源となりうる。


    3.質疑応答

    Q 世界初の水素専焼のガスタービンとあったが、イタリアのエネル社もそうではなかったか。どういった点で世界初なのかが知りたい。

    A エネル社は水素100%で燃焼したことはない。実際は98%で「ほぼ100%」が「完全100%」という話になったとのことであり、恒常的には70%。ここでは定常的に100%を目指している。


    Q 自社も川崎重工業のコージェネを使っている。今はガスエンジンタイプに切り替えた。ガスエンジンタイプにはトライしていないのか。

    A トライしている。SIPという内閣府の管轄でピストン式のガスエンジンに挑戦している。また、水素で同様のものができないか検証中である。ただタービン式より技術的な問題が大きく、基礎実験のレベルでしか実験できておらず、時間はかかる。


    Q 混合式ガスタービンの噴射機を変えるだけでガスの中身は変えられるのか。

    A メインのタービン部分の横の燃焼機だけを専用のものに変えれば、ガスタービン本体を変えることなくガスの中身を変更可能である。


    Q 今日見学した設備は全て川崎重工業自前の資金で運営しているのか、政府等の補助金があるのか。

    A 国のプロジェクトのものや他社のものもある。ガス液化機に関しては自社のものである。