視察・調査

2013年度 企業における生物多様性活動の視察

はじめに

生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)が愛知・名古屋で開催されて3年が経ち、世界は「愛知目標」の目標年である2020年に向けて新たな活動を始めています。
そこで当分科会では、今までとは異なった視点での生物多様性として、私たちが生物多様性の恩恵を受けていることを身近なこととして実感できる「(1)酒や味噌など発酵食品分野の微生物を利用した取り組みの見学」、過年度の視察アンケート等において会員企業から要望の多かった「(2)ビオトープを通じて生物多様性活動を行っている企業の視察」を実施しました。
(1)では、古くから伝わる日本の伝統技術である発酵と最新のコンピューター技術の融合による麹菌の管理などを学びました。また、(2)ではビオトープづくりに設計・構想段階から関わられている方から取組み事例をご紹介いただき、これからビオトープを整備しようと考えている企業などにとって貴重なアドバイスをいただきました。ビオトープに関する具体的な方針や変遷の説明を受け、実際に現状を目にすることで、生物多様性の保全に寄与するためのヒントを得ることができました。

開催日時: 平成25年10月8日(火曜日)
見学先: 1.盛田株式会社 小鈴谷工場
2.アイシン精機株式会社 半田工場
3.東邦ガス株式会社 知多緑浜工場
参加者: 28名

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    1.盛田株式会社 小鈴谷工場 <常滑市小鈴谷>


    【概説】
    愛知県知多半島の中間に位置し、江戸時代から続く盛田株式会社小鈴谷工場にて酒・味噌・醤油・たまりの微生物、麹菌を活用した製造方法を見学しました。酒は米の選択、磨き加工、温度調整、微妙な時間管理など一般には公開されてない酒工場にて、地元出身の杜氏による酒の製法を丁寧に解説いただきました。また、伝統調味料の味噌・醤油工場では麹菌による天然発酵、熟成製法の解説に加え、江戸時代から修繕を重ねて使われ続けてきた、微生物の力を引き出す杉の大きな木桶の製造・管理についても、すでに後継者がいなくなり、今後修繕が困難になったことなど深い点まで伺い、伝統産業継続の重要性を理解すると共に新しい技術・管理開発の重要性を感じました。
    加えて、この時期この場でしか経験できない、まさに絞りたての熟成前の原酒や製造途中の味噌など試飲・試食をさせていただき、市販の商品との成熟差を体験いたしました。
    併設する「盛田味の館」では休息が出来ると同時に、SONY創業者の盛田昭夫氏が十五代当主であることとその足跡の一部を知ることが出来ました。


    参加者から以下のような感想をいただきました
    「日本の伝統食品、酒・味噌・醤油を生み出す、麹菌等、発酵技術を理解できた」
    「歴史を感じ、最新技術の融合を感じた」
    「試食・試飲が楽しめた」
    「工場見学は、入場料を支払ってでも見る価値があると思う」

    醸造蔵の視察/味噌蔵の視察

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    2.アイシン精機株式会社 半田工場 <半田市日東町>


    【概説】
    アイシン精機株式会社半田工場は、「リサイクルによる大切な資源の再生」を目的とした「エコトピア」を展開し、生産活動と自然との調和と地域環境ネットワークの構築に取り組まれています。「エコトピア」は、各工場の生産工程から排出されるリサイクルが困難な廃棄物を再利用する「エコセンター」と、工場排水やエコセンターで再生された資材を利用した「エコトープ」から構成されています。管理運営にシニアを採用するなど、企業の生物多様性活動として継続して行く上で様々な工夫をされています。また、「子供たちの環境学習の場」としても活用しており、体験学習として工場から出る廃棄物のリサイクルの仕組みの見学や体験ができる施設となっています。
    最初に、エコセンターとエコトープについて、担当の方から説明していただきました。エコセンターでは、廃レンガや廃プラスチック、電線くずのリサイクルの状況や生ごみから堆肥を作り、エコトープに利用している状況を見学しました。資源を有効に循環できる取り組みを徹底されているところを目にして、その重要性を改めて感じるとともに、他の企業でも参考になると感じました。
    エコトープでは、社員の方々が話し合いをされながら手作りされ、リニューアルによる池の新設など年々改良を重ねられていること、地域の小学生に環境学習の場を提供していること等について説明していただきました。エコトープでは工場排水を利用されているとのことでしたが、小川には魚の群れがたくさん確認でき、びっくりしました。将来の森づくりのために苗木を育てられているなど、今後の整備の行方が楽しみだと感じました。


    参加者から以下のような感想をいだだきました
    「資源循環やビオトープの取り組みがおもしろい」
    「リサイクル工場とビオトープの組合せが大事だと感じた」
    「その場所に応じた生物を保全するなど、エコトープの考え方が良かった」
    「リデュース、リユースの取組みが良くわかった。今後の緑地管理に活かしたい」
    「手作りで試行錯誤をされながら、がんばっておられるところが良かった」

    エコセンターの視察/エコトープの視察

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    3.東邦ガス株式会社 知多緑浜工場 <知多市緑浜町>


    【概説】
    東邦ガス株式会社知多緑浜工場は、海外から調達したLNGを気化し都市ガスとして中部エリアに供給するLNG工場です。生物多様性保全の取組みとして、2001年の工場建設時に設置されたビオトープは、今では多くの生き物の生息する場となっています。
    最初に、天然ガスと知多緑浜工場の施設概要について、担当の方から説明して頂きました。天然ガスのクリーン性や隣接するLNG工場との効率的運用、周辺の景観に溶け込む地下式LNGタンクの採用等、天然ガスに対する知識が高まりました。
    次に、ビオトープエリアの計画段階から12年後の現状までの過程等について、担当の方から説明して頂きました。工場操業前からの周辺緑地等における生物の調査、ビオトープ設計段階における30年先を見据えた緑地設計の整備方針(メインとなる生物種やビオトープ構造の検討、植生遷移を考慮した植栽種と植栽場所の検討等)と現状、維持管理や新たにビオトープを整備する際のアドバイス等のお話があり、大変参考になりました。
    その後、2班に分かれて建設中の地下式LNGタンクとビオトープを見学させていただいた後、質疑応答の場を設けていただきました。ビオトープでは、池に生息するトンボ類や魚類、外来種、植生の遷移の状況等について説明して頂きました。散策路には、先駆植物として植栽されたオオバヤシャブシの実がたくさん落ちており、その役割を実感できました。


    参加者から以下のような感想をいだだきました
    「ビオトープを一から作り上げたのに、すでに自然と同調している」
    「陸地から橋でつながった島でも多数の昆虫、タヌキなどが住みつき、生態系ネットワーク形成の重要性がわかった」
    「しっかりとした考えと綿密な調査に基づき、ビオトープが作られていることが理解できた」
    「30年先を見越した緑地設計の考え方が参考になった」
    「ビオトープ設計段階からの構想や整備方針の考え方、整備を考えている会社へのアドバイスがとても参考になった」
    「トンボに着目された点、植林の考え方が参考になった」
    「ビオトープが自然に近い形で形成され、将来的な姿がどうなるか興味深い。ビオトープの技術を一般(自治体など)に広める活動をしてほしい」

    ビオトープエリア造成に係るプレゼンテーション/ビオトープの視察