視察・調査

EPOC視察(企画活動)北九州市&五島市方面視察会
「資源循環・エネルギー関連の取組み調査」報告書

《概要》

日時: 2022年10月4日(火曜日)〜10月5日(水曜日)
目的: EPOCで調査・研究を進めている先進技術の取り組みの中から「持続可能な開発の実践」の理解を深めるため、「OA機器のリサイクル」や「次世代エネルギーとなる港湾風力発電及び浮体式洋上風力発電」、「五島市のゼロカーボンへの取組み」について学ぶ。
視察先:

  • 北九州市エコタウンセンター様
  • 株式会社リサイクルテック様 <OA機器リサイクル>
  • 株式会社エヌエスウインドパワーひびき様  <湾岸風力発電施設>
  • 浮体式洋上風力発電海域施設 <戸田建設株式会社様他>
  • 五島市役所様
    ★五島市役所及び五島ふくえ漁協の取組みについて受講
  • 五島観光歴史資料館
  • 海洋エネルギー漁業共生センター様 <風力発電機器のメンテナンス>

参加者: 24名

《各施設の見学内容》

  1. 北九州市エコタウンセンター様

     北九州市では1997年に国が創設したエコタウン事業の第1号承認を受けて以来、若松区響灘地区にリサイクル業を中心とした企業団地および企業や大学による実証研究エリアを形成し、事業展開しています。エコタウン事業とは、「あらゆる廃棄物を他の産業分野の原料として活用し、最終的に廃棄物をゼロにすること(ゼロ・エミッション)」を目指し、資源循環型社会の構築を図る事業です。
     今回の視察では北九州市エコタウンセンターの垣迫様より「北九州市のエネルギー拠点としての歩み」や洋上風力発電の推進を軸とした「北九州グリーン成長戦略」などについてご説明いただきました。
     特に北九州市は日本の高度成長時代に四大工業地帯となり公害問題に苦しみ、市民、企業、自治体が一体となって美しい海と空を取り戻したことが、現在もエコタウン事業推進の原動力となっているお話には大変共感し、理解を深めることができました。


    垣迫様による取組み説明

    北九州市エコタウンセンターで集合写真

  2. 株式会社リサイクルテック様

     (株)リサイクルテックは廃棄処理が必要なOA機器を大切な資源として生かすために、北九州市響灘地区で1998年に操業を開始しました。従来埋立処分されていた(株)リコーのOA機器などを引取り、材質・材料ごとに一つひとつ丁寧に手分解・手選別して再利用可能な部品や材料として提供することで、再資源化率99.8%を実現しています。
     2019年には親会社の(株)新菱とともに新しい事業として太陽光発電パネルリサイクル工場をスタートさせ、EVA(エチレンビニルアセテート)熱分解と素材の高度選別によりこちらもリサイクル率99%以上が実現できました。
     視察当日は、(株)リサイクルテックの越治様から「OA機器工場の概況やリサイクルの実績」、「太陽光パネルリサイクルの熱分解工程や高度選別工程」などについてご説明いただいた後で、2班に分かれてOA機器のリサイクル作業工程を見学させていただきました。見学中も参加者からの質問には丁寧にご回答いただき、予定時間を大幅に延長するほどの盛り上がりとなりました。


    越治様による取組み説明

    (株)リサイクルテックの工場内見学

  3. 株式会社エヌエスウインドパワーひびき様

     初日最後の視察先として響灘風力発電事業を見学しました。響灘風力発電事業は、北九州響灘に面する日本初の港湾地区風力発電事業で、湾岸地区としては日本最大級の規模です。
     (株)エヌエスウインドパワーひびきでは、海岸沿いに10基の風車を運営し、発電規模は総出力15,000kW(定格出力1,500kWの発電機を10基設置)、年間計画発電量3,500万kWh、年間CO2削減量13,000トンで、安心・安全な操業を実現しています。
     ここでも北九州市エコタウンセンターの垣迫様から詳細の説明をうかがうことで、部品調達やメンテナンスでの様々な課題を乗り越えて、響灘地区を風力発電の総合拠点にしたいと願っている地域の皆さんの思いを感じることができ、風力発電事業に対する理解が深まりました。


    垣迫様による風力発電説明

    風車の前で集合写真

  4. 浮体式洋上風力発電海域施設(戸田建設株式会社様他)

     2013年環境省による浮体式洋上風力発電実証事業において、長崎県五島市椛島沖にて世界初のハイブリッドスパー型である2MW級の浮体式洋上風力発電施設の設置に成功しました。その後、本格的な運用で周辺海域の海洋生物や、生活環境への影響調査を継続し、浮体式洋上風力発電施設は、安全で環境への影響が小さく、生物多様性に貢献する発電施設であることが確認されました。2015年に椛島沖での2年間の実証運転を終え、約10km離れた五島市福江島にある崎山沖約5kmの洋上に移動し、現在も運転を継続しています。
     視察2日目は五島市福江島に移動して崎山沖の浮体式洋上風力発電施設の見学からスタートしました。乗船する前に福江港で戸田建設(株)の松信様から浮体式洋上風力発電の構造について、模型やパネルを使って詳細に説明していただきました。20分ほどで浮体式洋上風力発電施設の近くに到着しましたが、風車自体揺れもなく安定した稼働で、回転する音も思っていたより静かに感じました。20分ほど海上から見学し福江港に戻りましたが、風車の浮体を積込み、沖合で浮上させるための半潜水型スパッド台船が福江港に停泊していたので当初の予定には入っていませんでしたが見学させていただくことができました。間近で風車の浮体部分や羽を見ることはほとんどできないため、とても貴重な体験となりました。


    松信様による洋上風力発電説明

    崎山沖の風車

    半潜水型スパッド台船

  5. 五島市役所様

     午後からは五島市役所を訪問しました。最初に五島市役所の川口様から、「再生可能エネルギー自給率80%」及び「ゼロカーボンシティ」に向けた活動について講演いただきました。
     浮体式洋上風力発電の発電量はフル出力で2,000kW、一般家庭の約1,800世帯分の電力を送ることが可能です。洋上風力発電以外にも五島市には陸上風力発電機や太陽光パネルが多数設置されており、現在潮流発電システムも実証実験中で4年後の実用化を目指しています。こうした取り組みと浮体式洋上風力発電を2024年までにさらに8基増設し、計9基で稼働させることで五島市の再生可能エネルギー自給率は、2020年時点の約56%から2024年には約80%になる見込みであることを教えていただきました。
     また、五島市では2020年に「ゼロカーボンシティ」を宣言しました。2011年に電気自動車に関して国の認証実験が行われて以来、電気自動車の普及を推進し、現在は150台以上の電気自動車が島内を走り、急速充電器などの設備も充実しています。「ゼロカーボンシティ」を実現するには、再生可能エネルギー以外にも電気自動車の普及が重要で、五島市民の皆さんの協力なしでは実現できないことをご説明いただきました。
     後半は、五島ふくえ漁協の熊川様から漁業関係者の立場でどのように浮体式洋上風力発電に協力してきたかをお話いただきました。風車を建てると騒音や低周波音の影響で、魚がいなくなってしまうことが懸念され、心配する漁業関係者の説得だけでなく住民の理解も得て実証実験を開始するまでのご苦労された貴重なお話をうかがうことができました。最後に熊川様が、五島市が洋上風力発電のトップランナーとしてここまでこれたのは、建設業者と行政、漁業関係者の信頼関係がどこよりも強かったためと熱く思いを語られたことが、とても印象に残りました。


    川口様による取組み説明

    熊川様による取組み説明

  6. 五島観光歴史資料館

     五島観光歴史資料館は、福江市(現在は五島市に合併)の市制施行35周年を記念して、石田城の二の丸跡に建立されました。古代の暮らしや五島の遺跡、遣唐使と倭寇、キリシタン信仰、五島藩の形成、観光名所、民俗行事など五島の歴史文化が時代順に分かりやすく展示されています。本館の1階は観光案内と資料研究室、2階に五島列島の遺跡、神社仏閣、五島藩関連などの歴史・人物資料、3階に五島列島の自然、五島キリシタン文化、民俗行事、生物、山岳、農業・漁業関係が常設展示されています。
    視察当日は、1階のハイビジョンシアターで「バラモンの空」が上映され、バラモン凧も展示されていました。建物自体からも歴史を感じることができ、ゆったりとした時間を過ごすことができました。


    バラモン凧の展示

    五島観光歴史資料館で集合写真

  7. 海洋エネルギー漁業共生センター様

     視察の最後は、浮体式洋上風力発電の海底ケーブルのメンテナンスを行っている海洋エネルギー漁業共生センターを訪問しました。代表理事の渋谷様からは海底ケーブルのメンテナンスのご説明以外にも日本近海での磯焼け被害の拡大や藻場の再生の取組みから、漁場管理の大切さについてお話いただきました。渋谷様は水中工事作業の第一人者で、過去にはNHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』やTBS系『情熱大陸』などに出演されたこともあり、明るく、話題も豊富で、とても楽しくお話をうかがうことができました。部屋には潜水士が装着する機材が多数、展示されていましたが、近年ではドローンやロボットを活用することで活動範囲が広がっている潜水士の業務についてもご説明いただき、理解を深めることができました。


    渋谷様による取組み説明

    海洋エネルギー漁業共生センターで
    集合写真

《視察を終えて》

 今回の視察ではEPOCの2030年ビジョンのキーワードとなっている「連携」に着目し、地域のカーボンニュートラル実現に向けて、企業と行政が一体となって風力発電事業などに取り組んでいる福岡県北九州市と長崎県五島市を訪問しました。
 北九州市ではエコタウン事業の第1号承認を受けて以来、企業のリサイクル事業を推進し、風力発電、太陽光パネルなどによる再生可能エネルギーの安定供給を柱とした「北九州グリーン成長戦略」を策定するなど、企業と行政が「連携」することの大切さを視察から学ぶことができました。
 又、五島市でも「ゼロカーボンシティ」の実現に向けて電気自動車の普及を推進し、潮流発電の実用化や洋上風力発電の増設を支援して「再生可能エネルギーの自給率80%」という大きな目標に企業と行政が「連携」して挑戦している事例に接し、期待の大きさを体感することができました。

 いずれの施設におきましても現地において事業に携わられる方々から直接お話を伺い、また自らの目で見て感じることを通して、知見を広めることができ、大変有意義な時間を過ごすことができました。本報告書が、視察に参加された皆さまをはじめ、EPOC会員の皆さまの参考になれば幸いです。

 最後になりますが、視察団を快く受け入れ、惜しみなく知見をご教示頂きました各視察先様及び五島市の視察先とのスケジュールをご調整いただきました五島市観光協会様に、この場をお借りして深く御礼申し上げます。